2017年2月22日水曜日

はり新のお料理(古代チーズ「蘇」とノルウェーの「イエトオスト」)

●ノルウェーのチーズ「イエトオスト」をご存知ですか。日本の古代チーズと呼ばれる「蘇」と非常に似た食べ物です。今回、イエトオストを手が手に入ったので、両者を比較しました。
これがイエトオスト

ならべて比較、左側が「蘇」右側が「イエトオスト」



●当店では、かみつみち弁当や会席料理に「蘇」を添えております。日本の古代チーズと呼ばれる「蘇」。牛乳を8時間煮詰めて作る珍味で、奈良時代には貴族だけが口にすることを許された食べ物ですが、私は滋養強壮の薬として取り扱われていたのではないかと考えています。作り方は至ってシンプルで、牛乳を焦がさないよう根気強く攪拌しながら煮詰めるだけです。牛乳1リットルから蘇80〜100グラムを作ることができるので、牛乳を10倍に濃縮したようなものですね。単純計算ですが、蘇100グラムにはエネルギー670キロカロリー、タンパク質33グラム 脂質38グラム、炭水化物48グラムが含まれることになります。実際には一度に何十グラムも食べるものではなく、一口二口ほどを食べると充分満足します。奈良時代の貴族が食後に一口か二口ほどをサプリメント感覚で食べていた、なんて考えると面白いです。
《 → 当店ではこの様にして蘇を作ります YouTubeでご紹介

今回、入手したのはゴートチーズ
さて本題ですが、ノルウェーのイエトオストは山羊の乳を煮詰めた物と聞きます。製法は蘇と同じでしょうか(いまのところ製法は判りません)。ノルウェー語で山羊は「イエト」、チーズは「オスト」なので「イエトオスト」で「山羊チーズ」ということになるそうです。今回、手に入ったのは、ゴートチーズ(原材料表記として山羊の乳の他にホエイ、クリーム、生乳が含まれています)です。

 
 イエトオストを持った感覚は、いつも取り扱っている蘇より少し重いような気(中身がギュッと詰まっている感じ)がします。外見はイエトオストの方が色濃く、キメが細かくねっとりとした印象です。匂いはほとんど同じ。蘇を包丁で切る感じが"蒸した芋を切る様"と表現すると、イエトオストは羊羹を切ってる感覚。包丁の腹の部分にイエトオストが引っ付いて切るのにそこそこの力が必要です。

 イエトオストを食べてみると、まず「蘇」と全く同じ様なキャラメル香が口に拡がりますが、舌に感じる脂が全く違います。濃厚です、凄く濃厚です。歯に絡みつく粘りも全く別次元です。(あとで判ったのですが、イエトオストは薄くうすくスライスして野菜とミックスしたりクラッカーなどに乗せて食べるもののようです。5ミリ厚ほどに切ってそのまま食べると、慣れない私には少し濃厚すぎて一切れで充分でした)。それと塩っ気が非常に強い。

 チーズの起源には諸説があります。そのひとつを御紹介すると「紀元前1400年ころ、アラビア人の商人が山羊の乳を、その胃袋でつくった水筒に入れて旅をしていて、夕方にその水筒を開けてみると、山羊の乳は透明な液体と素晴らしい風味の白く柔らかな塊になっていた」。

 しかし、世界中のチーズがこのアラビア人から拡がっていったとは考えにくい事で、チーズ文化は世界各地で多元的に発生していったものだったのではないでしょうか。蘇とイエトオスト、日本とノルウェーの間には非常に似た食べ物があることが判りましたが、今回入手したゴートチーズがホエーやクリームとの混合物のため食べてみると少し異なる印象でした。それはイエトオストが現代のノルウェーの人々に好まれる様にアレンジされた結果でしょう。蘇も14世紀に日本の食文化から姿を消さずに現代まで食され続けていたらアレンジされて違う味になっていたかもしれませんね。


よく見ると薄くスライスするイラストが描かれています。薄切りにして食べるものなのでしょうか。

100グラム換算でイエトオストには炭水化物40グラム、タンパク質10グラム、脂質32グラム。蘇とはタンパク質の含量が大きく異なります。それと塩分が多いですね。





蘇とイエトオストを少し加熱してみました。蘇は全体的に柔らかくなりましたが、イエトオストは柔らかくなり表面に油が浮き出てきました。

2017年2月16日木曜日

はり新のお料理(飛鳥鍋御膳)

●期間限定でランチタイムに飛鳥鍋御膳を御用意しております。お一人様用の小鍋仕立てで、身体の芯から温まりますよ!

鍋のお野菜は「大和マナ」「結崎ねぶか」などの
大和野菜のほかに白菜、榎茸、白葱

●飛鳥鍋(昔はそう読んでいたかどうか判りませんが)は昔から奈良盆地南部の農家に伝わるお料理で、特別な日に旬の野菜と飼っていた鶏の肉を山羊の乳で煮込む特別な"御馳走"でした。起源には諸説がありますが、渡来人が冬の寒さを凌ぐために鶏を山羊の乳で焚いたのが始まりだとも言われます。

 昔は山羊の乳でしたが現在は、鶏ガラ出汁と牛乳で鶏肉と野菜を焚きます。味付けは各家さまざまの様で、味噌を入れる家、生姜を入れる家、七味唐辛子をタップリ入れる家、仕上げに溶き卵を加える家など。当店の飛鳥鍋は、白味噌と薄口醤油で味を調えまろやかな味に仕立てております。最後は黒豆御飯を加えた雑炊でシメ。

 あすか鍋御膳は、一日10名様ランチタイムのみのご提供です。(税込1,800円)





鍋のシメは黒豆御飯の雑炊で

2017年2月10日金曜日

はり新のお料理(奈良漬の粕をつかった粕漬け焼き)

●奈良漬けの粕に魚や肉を漬け込んでから焼くと、芳しい酒香が堪らない粕漬け焼きを楽しめます。

 

●奈良漬けは奈良の特産品としてあまりにも有名ですが、好みがハッキリとわかれて「奈良漬け大好き!」という方から「奈良漬けは苦手」と手もつけない方までいらっしゃいます。実は奈良漬けも生産者により辛口から甘口まで味の幅があり、漬ける野菜も瓜、苦瓜、キュウリ、生姜の他、牛蒡、筍、玉葱、セロリ、西瓜、メロン、柿などバリエーション豊かです。また、切ってすぐに食べて美味しい奈良漬けから五日間ほど寝かしてから食べないと美味しくない奈良漬けもあります。奈良は奈良漬けの激戦地ですから各生産者は試行錯誤を繰り返して、より美味しい奈良漬けを研究しています。食べ比べてみると面白いですよ。

 さて、今回ご紹介するのは奈良漬けを食べた後に残る粕の再利用。半割にした瓜の奈良漬を買うと奈良漬粕が残りますね。この奈良漬粕に魚や肉を漬け込んから焼くと芳しい酒香が堪らない粕漬け焼きを楽しめます。奈良漬けは、その製造に手間と時間がかかるため意外と高価なお漬け物です。奈良漬けだけ食べて残った粕を捨ててしまっては、あまりにももったいない。昔から奈良では残った奈良漬粕に、野菜や肉、魚を漬けて再利用します。そこで今回は、奈良漬粕を使った鮭の粕漬け焼きをご紹介させていただきます。


奈良漬の粕です。袋入りの奈良漬を買ったときに
袋と一緒に粕を捨てないで少しずつためたり
、奈良漬屋さんで粕を分けてもらいます。

左から煮きり酒、煮きり味醂、黒砂糖。奈良漬の粕だけで甘味が不足するときは、煮切り味醂や黒砂糖で味を調製します。粕が固くて扱いにくい時は煮切り酒で伸ばします。


今回は鮭を使ってご説明します。予め皮と身に多めに塩を振って暫く待ちます。塩の脱水作用により鮭の表面に水分が浮き出たのを確認してから、塩を水で洗い流しましょう。これにより魚に下味が入るのと同時に、魚特有の臭みを抑えることができるといいます。

鮭を奈良漬粕に漬けます。鮭をガーゼで包んでから粕に漬けると後の処理が簡単です。漬け時間は切り身の大きさや粕の調味具合によりますが、2〜5日で良いと思います。

上からも奈良漬粕をのせて

奈良漬粕が少ないときは、粕を切り身に塗ります



漬け時間は好みで調節してください。酒粕を洗い流しても良し、ペーパータオルで拭き取るだけでも良し。焼くときは表面が焦げやすいので注意しましょう。焼きたての酒粕香をお楽しみください。